Day March 26, 2024

飲食・観光業の人事が語る「人材定着」につながる人事施策とは

“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。 「パーパス経営の理解と実践」をテーマに行なわれたDAY1では、「【飲食×観光業】 人材定着を目指す企業の取り組み 〜人事評価とサーベイの効率的な運用方法〜」と題し、SmartHR導入前〜これまでの変化の過程が自社のエピソードを交えながら語られました。登壇したのは、株式会社FAR EASTの伊井 文さん、ハウステンボス株式会社の内海 彩さんです。 伊井 文 氏 株式会社FAR EAST 人事 店舗スタッフを経て、育児休暇復帰後から人事・労務全般を担当。研修制度や福利厚生の設計などの組織開発も手がけている。 内海 彩 氏 ハウステンボス株式会社 人事研修課 企画チーム 評価・サーベイ担当 神戸市外国語大学卒業。2020年に新卒で入社。学生時代、遊園地でのアルバイト経験を通して働く人にも幸せであってほしいと、従業員の働く環境改善に関心を持つように。パークの販売部門で2年間の勤務を経て人事研修課へ異動し、現在は評価・サーベイを担当。 坪谷 邦生氏 株式会社壺中天 代表取締役 壺中人事塾 塾長 1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、人材マネジメントの領域に「夜明け」をもたらすために、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し現在。主な著作『図解 人材マネジメント入門』(2020)、『図解 組織開発入門』(2022)、『図解 目標管理入門』(2023)など。 知識ゼロからHR部門を立ち上げ 坪谷さん 今日は”意志ある人事”として、FAR EASTの伊井さん、ハウステンボスの内海さんのお2人からお話をうかがいます。まず伊井さんからお願いできますか?…

「D&I」から「DEIB」へ。鍵となるのは、従業員が自分の居場所を感じられる「Belonging」

数年前とくらべて「D&I(Diversity & Inclusion)」という言葉を耳にする機会が増えました。最近では「Equity(公平性)」を加えて「DE&I」と呼ぶことも。さらに欧米を中心に「Belonging(帰属意識)」を加えた「DEIB」を提唱する企業も増えています。 こうした流れのなかで、株式会社ユーザベースでは2023年度から「DEIB」を掲げ、推進しています。 同社におけるBelongingは「一人ひとりが“自分の居場所がここにある”と感じられている状態」を指すのだとか。そして、組織のメンバーがありのままにクリエイティビティを発揮するために欠かせないテーマなのだそうです。 国内においてまだまだ珍しいBelongingをどのように解釈し、加えたのでしょうか。社内のDEIB推進に取り組む犬丸イレナさんに伺いました。 犬丸 イレナ クリエイティブディクレター / DEIB Committee メンバー (DEIB基礎研究・Neurodiversity推進担当) セルビアのベオグラード美大グラフィックデザイン・イラストレーション専攻修了。東京では電通で4年ほどカネボウ化粧品、日清食品、東芝などのキャンペーンのアートディレクターを務める。GoogleおよびOgilvyのロンドンオフィスにてデジタル戦略とアートディレクションを担当した後、2019年にユーザベースに参画。 社員の3割が「機会が平等に与えられていない」と回答。D&I推進の契機に ――「DEIB」について伺う前に、ユーザベースのD&Iにまつわる取り組みについて振り返らせてください。発端として、2021年にD&I推進のコミットメントを策定していますよね。どのような経緯で進められたのでしょうか。 犬丸さん ユーザベースでは、社員の行動指針や共有すべき価値観として「7つのバリュー」を2012年に定めました。そのなかのひとつで、D&Iと密接につながっているのが「異能は才能」です。 これまでにないプロダクトをつくって世界を変えていくにあたり、価値観、人種、宗教、性別、性的指向といったさまざまな違いをもった人たちが、手を取り合って進んでいく必要があります。それぞれが異能を発揮することで、イノベーションを起こせる。そんな考えのもと、バリューに組み込みました。 実際、「異能は才能」という言葉の存在によって、さまざまな人が活躍できる土壌がユーザベースに生まれました。ただ、10年以上の月日を経るなかで課題も見えてきたんです。 ――具体的にどのような課題が? 犬丸さん 転機となったのは、「ブラック・ライブズ・マター(2013年にアメリカではじまった人種差別抗議運動。2020年に起きたジョージ・フロイド事件をきっかけに世界的な広がりを見せた)」です。 ユーザーベース創業者の梅田(優祐)は当時、ニューヨークを活動拠点にしていました。そして、この出来事をきっかけにマジョリティとマイノリティで見える景色がまったく違うと知り、社内Slackに「みんなでこの問題について考えてみたい」という投稿をしたんです。 企業柄、そうした問題はきちんとデータをもとに議論するべきだという考えもあり、すぐに「ユーザベースの業務・評価・採用のプロセスには、本当に『機会の平等』があるか?」という社内アンケートも実施しました。すると、「ない」と回答する社員が3割ほどいて……私たちが思っているほど、ユーザベースの社内もフェアではない現状がわかったんです。そこで、もっとD&Iに力を入れなくてはならないと危機感をもちました。 ――それがD&I推進のコミットメント策定につながるわけですね。 犬丸さん そうですね。コミットメント策定とほぼ同時に、D&Iを推進していくチーム「D&I Committee」が結成されました。今では30〜40人の有志メンバーが集まり、女性活躍やアンコンシャスバイアス、LGBTQ+、更年期など、さまざまな課題に取り組んでいます。なかには、何かしらのマイノリティ体験をした人が、それを繰り返さないために活動しているケースもありますね。 また、こうしたチームが結果を出すためには、リーダーシップのコミットメントは欠かせません。そこで、CHROにもチームに加わっていただき、長期的な活動をしていく体制を整えています。 「異能は才能」を実現するための環境づくりに「Belonging」が役立つと思った ――そうした経緯を経て、2023年度からはD&Iに「Equity(公平性)」「Belonging(“自分の居場所がここにある”と一人ひとりが感じられている状態)」を加えた「DEIB」を掲げています。この考えは、どのように整理されていったのでしょうか。 犬丸さん D&Iの一環として、Diversability(障がい者)の方々(※)がユーザベースでもっと活躍できる環境づくりについてメンバーで話し合っていたのですが、「社内に充分な体制ができていないと、どんな人を採用しても自分らしく働けないよね」という議論になったんですね。それで、社員が公平に機会や待遇を受けられるようにする「Equity」が必要になると考えました。 ※『divers=多様な・多彩な』『ability=才能』という意味をもつ造語。ユーザベースでは障がい者雇用のことをDiversability雇用と呼ぶ。 リサーチを進めていたところ、グローバルでは「Belonging」も追加している例があると知ったんです。これは、従業員がありのままの自分でいるために、組織のなかで自分が尊重されていると感じられる状態を指す言葉でした。欧米だと、人種や宗教などのマイノリティのコミュニティがつくられ、ボトムアップでさまざまな施策を打ち出すというケースが多かったです。 ただ、欧米と違って、日本ではさまざまな人種が交わって働くことはあまり多くないですし、欧米の考え方をそのまま伝えても、ピンとこない人が多いと思いました。それよりも、一人ひとりの経験や価値観、強み・弱みといった、表に出づらい多様性をみつけ、尊重していくほうが現実的なんじゃないかなって。 それが「異能は才能」に一番近い考え方だと思ったし、そのために「Belonging」は重要なマインドだと感じました。Committeeメンバーに「Belongingも入れましょう!」と提案したときは「また増えるの!?」「ちょっと発音しづらい」「DEIBの読み方はディブなの?」という困惑の声も聞かれましたが(笑)。 ――確かに「Belonging」という言葉は日本人にとってあまり身近ではないので、どう解釈していくかも難しそうですね。 犬丸さん そうなんです。直訳すると「帰属意識」なのですが、その言葉からは古い時代の組織に存在していた「会社の言うことを聞くべきだ」という同調圧力を連想してしまう人もいる気がしました。…